「ITは便利だと聞くけど、実はよくわからない」
「社内でいろいろ進めてくれているけど、実際どんな仕組みなのかは説明できない」
そうした経営者の方は、決して少なくありません。
近年は、どの業界でもデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が日常的に使われるようになりました。
でも一方で、そうした流れに対して「自分には関係ない」「部下に任せているから大丈夫」と、どこか他人事のように感じている経営者の姿もよく見かけます。
本記事は、そうした方々を否定するためのものではありません。
ITに詳しくなくても、ツールを使いこなせなくても構わないのです。
でも、経営者という立場にある以上、“知らないままにしておくこと”が将来のリスクになる可能性は、無視できません。
「導入する・しない」の前に、「どういうものなのか、少しでも知ろうとする姿勢」。
それだけで、社員の動きが変わり、社内の空気が変わり、未来の判断力にも差がついていくのです。
この記事では、“ITをたしなむ”という軽やかな発想を通じて、経営者に求められるITとの向き合い方を、専門用語なしでやさしくお伝えしていきます。
なぜ“わかろうとする姿勢”が必要なのか?
ITの導入や活用は、現場に任せていればそれなりに進んでいくものかもしれません。
実際、多くの企業でIT人材や外部ベンダーに業務改善を任せているケースもあります。
しかしそこで気をつけたいのが、「経営」と「IT活用」が切り離されたまま進んでしまうことです。
社員は効率化を目指して動いているのに、経営判断はアナログなまま。
これでは、意識とスピードのズレが徐々に組織全体の停滞を生むリスクがあります。
“わからない”では済まされない時代
経営判断は、どんな時代でも経営者の責任です。
たとえば、セキュリティやクラウド管理、業務効率化などに関する選択肢を「よくわからないから」と判断しないままでいると、後で想像以上の損失を生む可能性もあります。
ITに強くなる必要はありません。
でも、「なぜそれを導入するのか?」「どう業務が変わるのか?」と尋ねられるだけの最低限の理解は、これからの経営に欠かせない「共通言語」になっています。
“わかろうとする姿勢”が社内の空気を変える
「自分にはわからないから、若い人に任せてるよ」──
この言葉は一見、現場への信頼にも聞こえますが、「社長はITに関心がない」と伝わってしまえば、社員は萎縮してしまうことも。
逆に、ほんの少しでも「それ、どんな仕組みなんだい?」と聞いてみるだけで、社員は“この人は一緒に考えてくれる”と感じます。
この空気の違いが、挑戦する組織・止まる組織を分けていくのです。
よくある2つのパターンとその危うさ
ITとの距離感に悩む経営者の方々には、大きく分けて2つの傾向があります。
どちらも「悪いこと」ではありませんが、そのまま続けることでリスクや機会損失につながる恐れがあります。
① 抵抗型:「うちは昔ながらでやってきた」
「紙のほうが安心だ」「メールより電話のほうが伝わる」──
こうした価値観は、過去に成功体験がある経営者ほど根強く残っているものです。
もちろん、信頼関係を大切にする文化や、アナログの強みを否定する必要はありません。
しかし、それが理由で新しい仕組みの導入にブレーキをかけてしまうと、現場の創意工夫や若手の挑戦の芽を摘むことになりかねません。
結果として、「変えたくても変えられない会社」というレッテルが、採用や取引にもじわじわと影響していくことがあります。
② 任せきり型:「詳しい人に全部任せている」
ITに詳しい社員や信頼できる外部業者がいるから大丈夫──
そう思って安心している経営者も多いでしょう。
ところが、ITの選定や導入は、経営判断そのものです。
「何のために?」「誰のために?」「どのぐらいの投資対効果を見込むのか?」
この部分を経営者が理解しないまま任せてしまうと、方向性のズレが生じ、想定と違う結果になるケースも少なくありません。
さらに怖いのは、そのズレに経営者自身が気づきにくいということです。
知らない・関与しない・報告を受けない──では、ITは「道具」ではなく「ブラックボックス」になってしまいます。
どちらのタイプにも共通するのは、「わからないこと」をそのままにしてしまうこと。
でも本当に必要なのは、“わかる”ことではなく、“わかろうとする姿勢”を持ち続けることなのです。
ITに関する知識や能力は“たしなみ”でいい。経営者が始めやすい3つのアクション
ITに苦手意識があるからといって、急にツールをマスターしたり、専門書を読み込んだりする必要はありません。
大切なのは、「少しでも知ろうとする姿勢」を日常の中に取り入れていくことです。
ここでは、経営者が無理なく始められる3つのアクションをご紹介します。
どれも“たしなみ”としてちょうどいい距離感から、自然に取り組めるものばかりです。
① 社内ツールに“自分で触れてみる”
たとえば、勤怠管理アプリや社内チャット、クラウドのデータ共有サービスなど、今、社員が使っているツールに一度ログインしてみることから始めてみましょう。
「へぇ、こうやって連絡してるのか」「意外と見やすいな」──それだけでもOKです。
触ってみることで、「なんとなく知っている」状態から「少しわかる」状態へと変わっていきます。
② ITに強い社員に“素朴な質問”をしてみる
「最近、社内で使ってるあのアプリって、どんなメリットあるの?」
そんな何気ない会話が、社員との信頼構築や現場の理解にもつながります。
専門用語で返されても構いません。
「なるほど、難しいなあ」と返せば、それも立派な“わかろうとする姿勢”です。
現場の空気を知るきっかけにもなり、「社長が興味を持ってくれている」という好印象も生まれます。
③ 業界の“IT活用事例”をひとつ調べてみる
たとえば「建設業 IT導入事例」「飲食店 クラウド活用」など、自社と近い業種の事例を検索してみましょう。
事例を通じて「うちでもできそうなこと」が見えてくると、ITが自分ごととして捉えられるようになります。
「真似したくなるような導入」だけでなく、「失敗事例」も一緒に知っておくと、より具体的な判断材料として活かせます。
どのアクションも、知識を深めるというより、“距離を縮める”ことが目的です。
まるで経営者がゴルフやワインの話題を“たしなむ”ように、ITにも少しの関心を持つ。それだけでも、組織に大きな変化を生みます。
「一緒に考える経営者」が、社員の挑戦を後押しする
経営者がITに詳しくある必要はありません。
でも、「わからないから任せる」と突き放すのではなく、「一緒に考える姿勢」があるかどうかで、社内の空気は大きく変わります。
たとえば、社員が新しいツールを提案したとき。
「そういうのは若い人に任せてるから」と返されると、現場は“結局やっても意味がない”と感じてしまうかもしれません。
でも、「それ、うちの会社にどう役立つと思う?」と問い返すだけで、“この人は耳を傾けてくれる”と社員は感じます。
その瞬間に、提案は自分ごととなり、組織の動きが加速していくのです。
社員は、経営者の“姿勢”を見ている
ITに限らず、社員は「言われたこと」よりも、「どう向き合っているか」をよく見ています。
たとえわからないことでも、「知ろうとしている」「関心を持っている」姿は、信頼や尊敬の感情につながるのです。
それがやがて、「社長が後ろで見ていてくれるから挑戦できる」「自分たちも変化していいんだ」という、前向きな文化につながっていきます。
「一緒に悩める経営者」は、強い組織をつくる
“理解している”よりも、“わかろうとする”こと。
“指示する”よりも、“対話する”こと。
それが、いまの時代に求められている経営者のITとの付き合い方ではないでしょうか。
社員と一緒に悩み、迷い、考える──
そんな姿勢こそが、「一歩先を行く会社」に変わる第一歩になるのです。
まとめ:「できない」より「知らないまま」にしない
ITに詳しくない。
ツールやシステムのことはよくわからない。
それ自体は、経営者として恥ずかしいことではありません。
でも、“知らないままでいい”という姿勢は、組織を少しずつ鈍らせていきます。
時代の変化に対応できる会社、社員が挑戦できる会社をつくるためには、トップが“わかろうとすること”が何よりも大切です。
経営者に求められるのは、完璧な知識ではなく、社員と一緒に考え、向き合う覚悟です。
ほんの少しでも関心を持ち、「これはなんだろう?」と尋ねてみる。
その一歩が、社内の空気を変え、経営判断の質を変え、未来の選択肢を広げていきます。
“ITをたしなむ”──
それは、これからの時代において、すべての経営者に求められる、新しいたしなみかもしれません。

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