2022年から続く物価上昇。エネルギー価格や物流コスト、仕入れ価格の高騰に加え、2025年以降は人件費の上昇も本格化すると予測されています。
中小企業をはじめ、多くの事業者がこの数年で何度か「価格改定」に踏み切ってきたのではないでしょうか。
しかし、何度も続く値上げ通知――。
最初は丁寧に書いた文章も、回数を重ねるうちに「定型文で済ませている」という企業も少なくありません。
けれど、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
その価格改定の“伝え方”、本当にお客様に伝わっていますか?
言い換えれば、値上げのお知らせは「企業姿勢」が見える瞬間でもあります。
単なる事務的な報告にしてしまえば、長年の顧客も「あれ?なんだか最近対応が雑になったな」と感じてしまうことも…。
もちろん、経営側の視点から見れば「必要な値上げ」であり、「ギリギリの判断」であることもよくあります。
だからこそ、伝え方ひとつで、顧客の受け取り方が大きく変わるのです。
この数年、業種を問わず“値上げは当たり前”という空気感がある一方で、消費者・取引先の「これ以上の値上げなら、他を探そう」という選択肢もまた現実的になってきました。
いま求められているのは、「価格改定を納得してもらう伝え方」=“伝える力”です。
この記事では、「値上げ=悪」ではなく、「誠意と未来を伝えるチャンス」と捉え、価格改定時に使える文例・表現・業種別の工夫例をまとめました。
初めて値上げ通知を作成する広報担当者の方も、もう何度も送ってきたという経営者の方も、一度“見直すきっかけ”にしていただけたら幸いです。
なぜ今、「伝える力」が問われているのか
「どうせまた値上げか」
そんな風に、通知を受け取った側に“あきらめ”や“がっかり”を感じさせてしまうことが増えている――。
これは、日々さまざまな企業のSNSやメール、お知らせ文を見ている中で、多くの人が抱えている率直な感情です。
物価高はどの業種にも影響しており、もはや社会全体が「値上げ疲れ」のフェーズに入っているとも言えます。
そんな中で、お客様に「納得してもらえる値上げ」を実現するには、ただの通知ではなく、“伝わる言葉”が必要不可欠です。
なぜなら、価格改定のお知らせは「値段の話」だけでは終わらないから。
その背後には企業の判断、覚悟、誠意、そして顧客への思いが含まれています。
たとえば、以下のような伝え方ではどうでしょうか?
- 「●月より価格を改定いたします。ご理解のほどよろしくお願いいたします。」
- 「昨今の原材料価格の高騰により、やむを得ず価格を改定いたします。」
これらは一見、問題のない文章のように思えますが、読み手側から見ると「一方的」で「他人事」に感じられることがあります。
本当に伝えたいのは、“それでも私たちは変わらず、あなたに価値を届け続けます”というメッセージのはずです。
近年では、値上げを伝える中で以下のような表現が好印象を与えるケースも増えています。
- 「これまで価格を据え置きでご提供してまいりましたが、品質を維持するために今回、やむを得ず改定を決断しました。」
- 「長らくご愛顧いただいているお客様へ、今後も変わらぬ価値をお届けするための判断です。」
このように、ただ「値上げします」ではなく、“背景を説明し、今後の姿勢を伝える”ことが、顧客の理解を得る鍵になります。
特に中小企業においては、「社長やスタッフの顔が見える」ことが武器になります。
価格の変更はあくまで通過点であり、顧客との信頼関係を深めるチャンスにできるかどうかが、伝える力にかかっているのです。
価格改定の伝え方、よくある失敗例
値上げの「伝え方」次第で顧客の反応が大きく変わるということは、すでに多くの企業が経験しているのではないでしょうか。
では、どのような伝え方が“逆効果”になりやすいのでしょうか?
ここでは、ありがちな失敗例を3つご紹介します。
1. 定型文を使いまわしている
毎年のように価格改定を行っている企業にありがちなのが、過去のお知らせ文をそのまま再利用してしまうケースです。
確かに業務効率の面では有効かもしれませんが、顧客側には「毎回同じ」「気持ちがこもっていない」という印象を与えてしまうリスクがあります。
たとえば長年通っている美容室や整体、取引している業者からのお知らせが「去年と同じ文章」だったら、どんな気持ちになるでしょうか?
リピーターや常連のお客様ほど、そうした違和感に敏感です。
2. 値上げ理由が「不明瞭」or「自社都合すぎる」
「原材料の高騰により…」「人件費上昇のため…」という理由は、もはや世の中であふれています。
しかしそれだけでは、顧客にとっては“他社と同じ”という印象になり、「うちの事情なんて関係ない」と突き放されてしまうことも。
このような場合は、もう一歩踏み込んで「具体的に何がどの程度影響しているか」「企業としてどのような改善努力をしてきたか」なども伝えると、誠実な印象になります。
3. 顧客のメリットがまったく書かれていない
価格が上がるという事実だけを淡々と伝えると、どうしても「一方的」「押しつけがましい」印象になりがちです。
このとき、「価格は上がりますが、より良い価値を提供するための投資である」という視点を加えるだけで、伝わり方がまったく変わります。
たとえば、「この価格改定により、これまで以上に迅速な対応が可能となります」や「今後も品質維持のための材料選定を徹底いたします」など、お客様の未来に寄り添った一言があると、前向きな印象を与えることができます。
まとめると、よくある失敗例は以下の3つに集約されます。
- 文章が機械的・使いまわしになっている
- 値上げ理由があいまいで、読み手が納得しにくい
- 顧客にとってのメリットや今後の姿勢が見えない
これらの失敗を避けるには、次の章で紹介する「伝え方の5つのポイント」を意識することが重要です。
伝え方のポイント:誠実に、明確に、前向きに
値上げの通知文において、最も重要なのは「誠実さ」「明確さ」「前向きさ」です。
この3つを意識することで、読み手の印象はぐっと柔らかくなり、受け入れやすい内容に変わります。
ここでは、価格改定をお知らせする際に押さえておきたい5つの具体的なポイントをご紹介します。
1. 冒頭で「感謝」を伝える
まず大切なのは、いつも利用してくれているお客様・取引先への感謝の気持ちを最初に伝えること。
いきなり値上げの話から始まると「冷たい印象」になってしまいます。
例:
「平素より格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。」
「日頃より弊社製品をご利用いただき、心より御礼申し上げます。」
2. 値上げの背景を具体的に説明する
「原材料の高騰」や「物流費の上昇」といった理由だけでは、情報として不十分です。
具体的な要因や、これまでの価格維持の努力も加えることで、誠意が伝わります。
例:
「弊社ではこれまで〇年間にわたり価格の維持に努めてまいりましたが、昨今の〇〇の影響により、自助努力だけでは現行価格の維持が困難となりました。」
3. 顧客へのメリットや今後の方針も添える
単に値上げを告げるだけではなく、「より良い商品・サービス提供のため」という前向きなメッセージを加えることが大切です。
例:
「引き続き、品質管理・サービス体制のさらなる強化に努めてまいります。」
「価格改定後もご満足いただけるよう、アフターサポートの強化にも取り組んでおります。」
4. 適用時期・新価格を明示する
読み手が最も気になるのは「いつから」「いくらになるのか」という点です。
数字と日付を明記し、誤解が生まれないようにしましょう。
例:
「2025年10月1日より、下記の通り価格を改定させていただきます。」
「新価格:〇〇円(旧価格:〇〇円)」など
5. 問い合わせ先・相談窓口の案内も忘れずに
「何かあれば相談できる」ことで、読み手は安心します。
値上げに関する質問や、契約更新の相談などを受け付ける旨を明記しましょう。
例:
「ご不明な点がございましたら、担当営業または下記までお気軽にお問い合わせください。」
「本件に関するお問い合わせ先:support@example.co.jp(担当:〇〇)」
このように、伝え方を少し工夫するだけで、「ただの通知」から「信頼を築くコミュニケーション」へと進化させることが可能です。
次の章では、実際に参考になる「業種別の文例集」をご紹介します。自社に合った表現を見つけてみてください。
業種別|参考になる「価格改定のお知らせ」文例集
価格改定のお知らせは、業種によって伝え方や重点ポイントが異なります。
ここではよくある業種別に「そのまま使える文例」と「工夫のポイント」を紹介します。
1. 小売・ECサイト(例:食品・生活雑貨など)
文例:
平素より〇〇オンラインショップをご利用いただき、誠にありがとうございます。
このたび、仕入れ価格および物流コストの継続的な高騰に伴い、誠に心苦しい限りではございますが、2025年10月1日より一部商品の販売価格を改定させていただくこととなりました。
弊社では、できる限り価格を維持すべく努力を重ねてまいりましたが、現行の価格体系を維持することが困難となったための判断です。
今後も安心・安全で高品質な商品をお届けできるよう努めてまいりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
ポイント:
「いつもの商品」が対象だからこそ、丁寧な背景説明と品質維持の姿勢が重要です。定期購入者がいる場合は「該当商品一覧へのリンク」も明記しましょう。
2. サービス業(美容室・整体・フィットネスジムなど)
文例:
いつも〇〇(店舗名)をご利用いただき、誠にありがとうございます。
このたび、施術に使用する資材や設備費の高騰、ならびにスタッフの処遇改善を目的とし、2025年11月1日より施術料金の一部を改定させていただくこととなりました。
ご負担をおかけする形となり大変心苦しいのですが、今後もお客様により良いサービスと技術を提供するための取り組みとご理解いただければ幸いです。
詳しい料金表は店頭およびホームページにてご案内いたします。ご不明点がございましたらスタッフまでお声がけください。
ポイント:
「人」に対する信頼関係が中心の業種では、スタッフへの想いを言葉にすることも効果的です。実店舗なら口頭でも伝えやすいよう、事前告知を丁寧に。
3. 飲食店(個人店・チェーン含む)
文例:
日頃より〇〇(店名)をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
当店では、開店以来なるべく価格を据え置いてまいりましたが、近年の食材・光熱費・配送コストの高騰を受け、やむを得ず一部メニューの価格を2025年9月より改定させていただく運びとなりました。
引き続き、ご満足いただける味とサービスを提供できるよう努めてまいりますので、今後とも変わらぬご愛顧のほどお願い申し上げます。
ポイント:
「味・ボリューム・安心」など顧客の期待ポイントに今後も応える姿勢を明示すると、前向きな印象になります。店内POPやSNSでも補足すると効果的です。
4. BtoB(製造業・建材・法人向けサービスなど)
文例:
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素より格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。
さて、誠に恐縮ながら、2025年10月納品分より、弊社取り扱い製品の一部について価格を改定させていただくこととなりました。
主な要因は原材料費・輸送費・人件費の高騰であり、弊社といたしましてもあらゆるコスト削減に取り組んでまいりましたが、従来価格の維持が困難な状況に至りました。
新価格一覧および適用製品の詳細は別紙にてご案内申し上げます。
今後とも品質と納期の安定供給に努めてまいりますので、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。
ポイント:
ビジネス相手には「影響範囲」「適用時期」「補足資料」の3点が不可欠です。契約書の変更が伴う場合は別途通知文も準備しましょう。
5. サブスクリプション・月額課金(塾・SaaS・クラウドサービスなど)
文例:
平素より〇〇サービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。
このたび、さらなる機能拡充とサポート体制の強化に向けて、2025年12月1日より月額利用料金を以下の通り改定させていただきます。
【現行価格】月額〇〇円 → 【新価格】月額〇〇円
本改定に伴い、新たに〇〇機能の追加や、チャットサポートの対応時間延長なども予定しております。
ご契約内容や料金に関するご質問は、お気軽にサポートまでお問い合わせください。
今後とも、より価値あるサービスを目指して努めてまいりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
ポイント:
価格改定を「アップグレード」として伝える工夫が効果的。月額課金ユーザーには、価値追加やサービス改善をあわせて伝えるのがポイントです。
6. 学習塾・スクール(対面・オンライン問わず)
文例:
保護者各位
日頃より〇〇塾の教育活動にご理解とご協力を賜り、誠にありがとうございます。
昨今の講師人件費および設備維持費の上昇に伴い、教育の質を維持するため、2026年度より一部コースの月謝を改定させていただくこととなりました。
改定後の月謝一覧は別紙またはホームページにてご確認いただけます。
ご負担をおかけいたしますが、引き続き「子どもたちの成長を第一に考える指導」を大切にしてまいりますので、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。
ポイント:
「保護者目線」での説明と教育方針の強調が大切です。感情に寄り添いながら、教育の質を守るための正当な理由を明確に伝えましょう。
7. 士業・専門サービス(税理士・社労士・ITコンサルなど)
文例:
平素より弊事務所をご利用いただき誠にありがとうございます。
このたび、サービス品質維持および法改正対応に伴う業務量の増加を受け、2026年1月より一部報酬規定の見直しを実施させていただくこととなりました。
顧問契約中のお客様には個別にご案内をお送りいたします。
今後も変わらず、貴社の発展を支えるパートナーとして尽力してまいりますので、引き続きのご愛顧をお願い申し上げます。
ポイント:
「法改正」「専門性の高度化」「丁寧な個別案内」の3点が信頼を保つカギです。顧問先ごとに対応が異なる場合は、個別対応の旨も明記を。
このように業種によって伝え方のトーンや注目ポイントは大きく異なります。
いずれの業種でも共通して大切なのは、「感謝・背景説明・今後の姿勢」を丁寧に伝えることです。
価格改定のお知らせは、単なる通知ではなく「信頼の再確認」の機会として捉えましょう。
価格改定をきっかけに、関係性を深める企業も
価格改定は、企業にとっては“苦渋の決断”であり、顧客にとっては“ネガティブな知らせ”と思われがちです。
しかし実際には、その「伝え方」や「姿勢」次第で、顧客との関係がより強固になるケースも多く存在します。
たとえばある小規模なベーカリーでは、原材料費の高騰により主力商品の値上げを決断しました。
その際、お知らせ文に「これまで価格を維持できたのは皆さまの応援があったからこそ」という一文を添え、店頭にもスタッフ直筆の“感謝の手紙”を掲示。
結果として常連客からは「むしろ応援したい」「値上げしても通います」という声が寄せられたそうです。
また、あるBtoB企業では価格改定と同時に、自社の業務改善やサービス強化の取り組みを“定期レポート”として発信するようになりました。
「値上げの理由が明確で納得できた」「今後の方針が見えるのは安心できる」という反応が取引先から得られ、むしろ信頼感が高まったといいます。
このように、価格改定の“通知”を単なる「一方向の連絡」にせず、双方向のコミュニケーションに発展させることが、今の時代の重要な広報戦略です。
他にも、こんな工夫を取り入れている企業があります:
- 価格改定後の「新たな取り組み」をSNSで定期発信(例:製品改良の裏側紹介)
- 既存顧客には1カ月間「旧価格据え置きキャンペーン」を実施
- 感謝の気持ちを込めた「ちょっとしたノベルティ」同梱で気持ちを伝える
大切なのは、「どうせ値上げだから仕方ない」ではなく、「どうせなら、もっと信頼される会社に」という視点です。
価格改定を通じて、自社の思いや方向性を伝えることは、単なる料金の調整以上の意味を持ちます。
それは、“企業姿勢”を見せるチャンスであり、顧客に「共感」してもらえる貴重な接点でもあるのです。
まとめ|価格改定こそ、伝え方に差が出る時代へ
2025年現在、値上げは決して珍しいことではなく、あらゆる業種で避けがたい経営判断となっています。
しかし、それだけに「伝え方」に差が出る時代でもあります。
同じ価格改定でも、ただの定型文で伝えるのか、顧客に寄り添った言葉で伝えるのかによって、受け手の印象は大きく変わります。
今回ご紹介したポイントをおさらいすると、以下の通りです。
- まず「感謝」の気持ちを伝える
- 価格改定の背景を具体的に説明する
- 今後の品質維持や改善の方針を添える
- 対象商品・改定価格・適用時期を明確に
- 問い合わせ先や補足情報も忘れずに
そして何より大切なのは、価格改定を「信頼を深める機会」として活用する姿勢です。
一方的に伝えるのではなく、企業としての想いをきちんと言葉にする。
その積み重ねが、お客様との長い関係性を築いていく礎となります。
今後さらに厳しくなるコスト環境の中で、顧客離れを防ぎ、信頼を維持していくために。
ぜひ自社らしい言葉で、価格改定の背景や想いを伝えてみてください。
価格改定は「試練」ではなく、「信頼を強化するチャンス」でもあるのです。

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