建設業のホームページにおいて、「施工実績」は最も注目されるコンテンツのひとつです。
「この会社はどんな現場で、どんな規模の仕事をしているのか?」という点は、発注者や協力会社、求職者にとって重要な判断材料となります。
とくに、学校や病院、商業施設、大手企業の工場など、誰もが知っているような施設の名前が並んでいれば、それだけで「信頼できそう」と思わせる力があります。
しかしその一方で、建設業には元請け・下請けといった多重構造があるため、「自社で担当したとはいえ、勝手に公開してよいのか?」「写真や社名を出してトラブルにならないか?」といった疑問や不安を感じる担当者も少なくありません。
特に元請け企業や発注者の意向に配慮が必要な場面では、その取り扱いには慎重さが求められます。
この記事では、施工実績をホームページで紹介する際の基本的なルールやマナー、そして“効果的かつ安全に”活用するための工夫について、実務目線でわかりやすくご紹介します。
施工実績掲載の効果とは?
信頼性・実績の「見える化」で競合との差別化
ホームページ上で施工実績を紹介することで、これまで手がけた仕事の「質」や「規模感」を具体的に伝えることができます。
特に建設業では、「誰と仕事をしてきたか」が企業の信用力に直結するため、大手企業や公共案件の実績があれば、それだけで大きな信頼材料となります。閲覧者にとっても、「この会社なら安心して任せられそうだ」と思ってもらえるきっかけになります。
発注者や協力会社からの問い合わせ増加
施工実績ページは、ポートフォリオとしての役割も果たします。
発注者が「似たような案件の経験がある会社に頼みたい」と考える際、写真や詳細情報のある実績を見て「この会社に相談してみよう」と思ってもらえる可能性が高まります。
また、同業の協力会社からの提携依頼や問い合わせが増えるなど、営業的な広がりにもつながります。
採用活動にも好影響を与える
意外に見落とされがちですが、施工実績は求職者にとっても重要な判断材料です。
「どんな現場で働けるのか」「社会に役立つ仕事に関われるのか」といったことを知るために、実績紹介ページを参考にする学生や求職者は少なくありません。
働くイメージを持ってもらいやすくなり、企業への興味を高めるきっかけとなります。
下請けでも掲載していい?法的・契約的なポイント
基本は「許可を得てから」が原則
建設業界における施工実績の掲載は、元請や発注者の許可を得てから掲載するのが基本です。
たとえ自社が重要なパートを担っていたとしても、発注者側にとっては「情報公開」にあたるため、勝手にWebに掲載することは信頼関係を損ねるリスクがあります。
特に公共工事や大手企業の案件では、情報管理が厳格であることが多く、無断掲載が契約違反にあたることもあります。
契約書や仕様書の確認を忘れずに
請負契約書や工事仕様書の中に、「情報発信・対外広報の制限」や「守秘義務」に関する条項が設けられている場合があります。
そこに「工事写真や実績の第三者公開は不可」などの文言がある場合、たとえ施工現場の写真を自社で撮っていても無断掲載はNGです。
まずは契約書を確認し、不明点があれば元請担当者に問い合わせるのが安全です。
掲載OKでも“表現”に注意
たとえば元請企業の名前を明記したり、「○○ビルの施工を手がけました」と言い切ってしまうと、「あたかも元請だったかのような印象」を与えかねません。
実際には下請として一部工程を担当した場合は、「○○ビル建設において、外構工事を担当」など、自社の関与範囲を明確に記載することがマナーです。
また、元請や施主が撮影した写真を転載する場合は、著作権や使用許諾の確認も必要です。
掲載時に気をつけたい、3つの「マナーと手続き」
1. 「写真・内容」は事前に確認・承認を取る
施工実績を掲載する際、もっとも重要なのは写真やテキストの内容を発注元に確認してもらうことです。
「どこまで書いていいか」「どの写真が使えるか」は案件によって異なります。
たとえば、施設名は伏せて「某大手企業の物流センター」などとする配慮や、敷地外から撮影した写真のみ許可されるケースもあります。事後承諾はトラブルの元になるため、事前確認・承認のフローを整えておくことが大切です。
2. 「社名・ロゴ」の使用には特に注意
有名企業の施工に関わった場合、ついロゴを使いたくなりますが、社名やロゴは「商標権」の対象となるため、無断使用は避けましょう。
許諾なくロゴを掲載すると、信用毀損や法的な問題に発展することもあります。
「許可が得られた場合のみ使用可能」といったルールを社内でも明確にしておくと安心です。
3. 「自社の関わり方」は正確に記載する
施工全体を請け負ったのか、外構や内装など一部を担当したのかは、見る側にとって重要な情報です。
誤解を招かないためにも、「外構工事を担当」「内装の床材施工を担当」など、自社の担当範囲を具体的に記載しましょう。
誇張表現は信頼性を損なうだけでなく、元請との関係悪化にもつながりかねません。
どんな書き方・掲載形式がトラブルになりにくい?
施工実績をWebサイトに掲載する際は、単に実績を並べるだけでなく、相手企業との関係や法的なリスクに配慮した「書き方」や「掲載形式」が求められます。
以下に、トラブルになりにくいポイントをいくつかご紹介します。
1. 実名・写真を避けて「事例紹介風」に
どうしても掲載許可が得られない場合は、「業種」「地域」「規模感」などの情報にとどめて、社名や施設名は伏せる方法があります。
たとえば「千葉県内の物流施設(延床面積4,000㎡)」のような記載にすれば、具体性を維持しつつ情報をマイルドにできます。
写真も、外観や内装の一部など、施設が特定されにくい構図を選びましょう。
2. 担当範囲や元請・下請の関係性を明記
施工のどの部分を担当したのか、自社の関与範囲を明確に示すことが誤解を防ぎます。
たとえば「電気配線工事を担当」「足場工事のみ施工」といった記述が望ましいです。また、「元請:〇〇建設(敬称略)」といった補足も加えることで、より誠実な印象を与えることができます。
3. 社内向け「実績掲載テンプレート」の整備
どのような形式・表現が社内でOKなのか、掲載フォーマットや判断基準をテンプレート化することで、属人的な判断によるリスクを減らせます。特に外注先や営業部門が更新を行う場合は、統一ルールが必要です。
「顧客の承諾が必要な場合」「社名を出してよい範囲」などをガイドライン化しておきましょう。
自社で許可を取るのが難しい場合の代替案
施工実績の掲載には、基本的に元請会社や施主からの許諾が必要です。
しかし、中小建設業者にとっては「元請の許可をもらうのがハードルになる」「取引先に気を遣いすぎて実績を出せない」というケースも少なくありません。
そうした状況でも、自社の技術力や信頼性を伝える方法はあります。
1. 「自社の技術・施工分野」を前面に出すコンテンツを作る
特定の実績ではなく、自社が得意とする工法・施工分野や対応エリア、作業風景を紹介するページを設けるのも有効です。
「重量物の搬入設置が得意」「店舗内装工事に強い」など、ジャンルごとに紹介すれば、実績が掲載できなくても具体的なイメージを伝えることができます。
2. 自社名義の物件をモデルケースとして紹介
本社の自社ビル、倉庫、自宅兼モデルハウスなど、掲載許可を取りやすい施設をあえて施工事例として使うのも一つの手段です。
工事内容の自由度も高く、写真も詳細に掲載できます。「展示用に一部を再施工」「社員研修用に再現した工事現場」など、活用方法の工夫も可能です。
3. パートナー企業との共同掲載を検討する
もし信頼できる元請会社や設計事務所などがあれば、共同で事例紹介を行う相談を持ちかけてみましょう。
相手側にも実績としてメリットがある内容であれば、了承を得られる場合もあります。その際は、記事や写真の事前確認フローを丁寧に設けることが大切です。
まとめ:誠実な情報発信が、信頼と次の受注につながる
建設業における施工実績の掲載は、確かに強力な集客・営業ツールです。
しかし、どれだけ自社にとって魅力的な事例であっても、発注者や元請企業の了承を得ずに掲載することはリスクを伴います。契約違反や信頼関係の損失を防ぐためにも、掲載前の確認と丁寧な配慮が不可欠です。
また、許可が得られない場合でも「施工技術」や「得意分野」「施工風景」といった別の切り口から自社の強みを伝える工夫は可能です。
無理に“掲載できる案件”を探すのではなく、誠実に、かつ戦略的に自社をアピールする方法を選びましょう。
アトラボでは、中小建設業向けのWeb制作や施工実績ページの企画・ライティングも多数サポートしています。
掲載可否の整理や社内ルール化のご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。


コメント